ある町医者の診療日記

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zoom RSS 業務上過失という刑罰

<<   作成日時 : 2008/05/23 10:12   >>

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これも業務上過失致傷や致死罪という刑事罰は使うべきではない、ない方が良いという典型的な事例と思います。
共同通信の記事ですので例によって初めはよく理解できなかったのですが、m3の書き込みを読んでやっとその背景が分かってきた。

まずm3の配信された共同通信の記事。
-----(ここから引用)-----
患者37人に採血針使い回し 1人からB型肝炎ウイルス
記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2008年5月22日】

 島根県は21日、県内の民間の診療所で3-4月、針を指先に刺して採血する「ランセット」と呼ばれる医療器具の針を交換せず、糖尿病患者ら37人に使い回していたと発表した。

 患者1人にB型肝炎ウイルスの陽性反応があり、県は使い回しとの因果関係や、ほかの患者が感染していないか調べている。厚生労働省は、患者ごとに針を交換するよう通知を出している。

 診療所は「器具を新しくしたばかりで、看護師が針を刺すごとに自動的に新しい針に切り替わるタイプと勘違いした」と説明しているという。

 県医療対策課によると、実際は針を手動で交換するタイプだったが、複数の看護師が3月28日から4月30日まで針を換えずに採血していた。同課は「注意喚起が発表の趣旨」として診療所名は公表していない。

 4月30日に診療所が保健所に連絡。同課は5月1日に報告を受けたが「血液検査などを優先させ、発表に時間がかかった」としている。
-----(引用、終わり)-----

共同通信は、配信した記者名は記さないようです。
つまり、匿名記事ってことです。
ネット上では匿名で書かれていることが多いからどうのこうという批判をよく既存マスコミがやりますが、この手の飛ばし記事を見ていると、匿名非難は既存マスコミにこそ向けるべきだと思います。

ただし、この匿名問題は別筋。
問題は、どうして「針を交換せず」に多数の患者に使用したのかという問題です。
共同通信は、針が自動で交換されるタイプの器具と勘違いしたためと書いていますが、これもよく分からない。

読売新聞の記事を引用します。
たぶんすぐリンク切れになると思いますから、あえて全文引用しておきます。
共同通信記事とどれほど違うかよく分かると思います。
なぜこういう事例が起こったのか、共同通信記事よりはるかによく分かる。
というか、共同通信記事では、読む者をミスリードする、そんな記事はない方がましです。

-----(ここから引用)-----
島根の診療所が採血針使い回し、14人が肝炎感染

 島根県益田市の診療所「おちハートクリニック」(越智弘院長)が3月末から約1か月間、糖尿病患者計37人に対して、血糖値測定のために指先などに針を刺して採血する器具を使い回していたことがわかった。うち14人から因果関係は不明だが、B型、C型肝炎ウイルスの感染が確認された。複数の看護職員が自動的に針が交換されると誤解したのが原因という。厚生労働省は同様の器具の使い回しを禁じる通知を出しており、県は同クリニックを行政指導するとともに今月中にも立ち入り検査する方針。

 県医療対策課によると、器具はドイツのメーカーが製造、日本法人のロシュ・ダイアグノスティックス社(本社・東京都港区)が販売する「マルチクリックス」。同様の器具は国内で約20種類販売されている。糖尿病患者が自己管理のために使うペン型の製品で、交換可能なドラムに6針が入っており、1針使うごとに自分でドラムを回して新しい針にする仕組み。赤い字で「複数患者使用不可」と書いたシール(縦1・5センチ、横3・5センチ)を本体に張っている。

 同クリニックでは、3月までは使用の度に針を取り換える別の器具を使っていたが、故障したため、3月28日以降、今回の器具を使用。越智院長ら医師2人が担当する内科、循環器科、心療内科で複数の看護職員が使用方法を誤解して、複数の患者に、使用済みの同一の針で採血したという。

 4月30日に看護師が誤りに気付いて保健所に連絡。同クリニックは5月1〜9日に対象者全員に肝炎やエイズウイルス(HIV)などの検査を実施、B型肝炎の抗原保有者1人、同抗体保有者11人、C型肝炎の抗体保有者2人がいることが判明した。

 厚労省によると、B型肝炎はウイルス感染の直後から約半年後までに抗原が、感染の約1か月後〜約1年後までに抗体が確認されることが多い。C型肝炎では感染後1〜3か月で抗体が陽性になるという。同課は、以前に感染していた可能性もあるとしているが、同クリニックは患者に経緯を説明して謝罪、一部患者にワクチンを接種した。

 同様の医療機器による肝炎感染は2005年に英国で発生。これを受け、厚労省は06年3月、医療機関に同様の器具の使い回しを禁じる通知を出した。今回の器具の添付文書にも、禁止事項で「個人の使用に限り、複数の患者に使用しない」「使い捨てで再使用しない」などと記載、本体にも使い回しを禁じるシールを張っている。越智院長は「納入業者から(器具を使い回しても)大丈夫と言われた。患者には迷惑をかけて申し訳ない」と話している。

 厚労省医薬食品局安全対策課は「海外の事故例を把握して注意喚起の表現を強め、シールも本体に直接張らせるなど、できる限りの対策を講じた。今回のような事態は想定外で、対策は悩ましい」としている。

■機器改良が必要■

 厚労省の医療機器安全対策部会の元委員、小柳仁・東京女子医大名誉教授(心臓外科)の話「医療機器は常に改善の余地があるが、最近は完成された物とみなして全く注意を払わずに使う人が多い。医療機器の問題には不具合と不適切使用の2種類があり、今回は不適切使用がほぼ明白だが、大切なのは、勘違いや理解不足があっても事故にならないよう機器を改良すること。事故例を厚労省が自主報告にまかせ、実態を把握できていないのも問題だ」
(2008年5月22日 読売新聞)
-----(引用、終わり)-----

専門家のコメントも的確です。
つまり読売新聞は、毎日新聞や共同通信、さらにテレビなんかが引っ張ってくる写真家崩れや自称医療被害者のようなエセ専門家のコメントじゃなく、真の専門家に意見を求め、それを的確に記事にしているってことです。

この事件でこれからどうすべきかも、小柳先生が言われることにつきます。
この事件は器具の不適切使用であることは明白ですが、それで不適切使用した個人を罰してはいけないのです。
不適切使用するその背景を検討し、勘違いしても、理解不足があっても「事故にならないよう機器を改良すること」です。また、国のシステム、医療のシステム、医療器具の販売システム、そういう社会のシステムに問題はなかったのか検討し、改善すべきところがあれば改善しないといけない。
そのためには、きちんと事故報告してもらわないといけない。隠蔽や嘘があってはいけない。個人を罰していてはそれが達成できない。
それを、業務上過失致傷や致死罪のような刑事罰で個人(法人も含む)を罰していては、きちんとした事故報告がなされない(可能性が高い)。それ以上に、それを求めることは憲法の定める基本的人権を犯すことになる。

被害者補償は別ですが、これも正確な背景を理解した上で、誰がどれほどというのを決めるべきでしょう。そのためにもそれを阻害するような法律はない方がよい。

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おちハートクリニックの採血用医療器具の針の使い回しと採血器具のキャップの使い回しの違い
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2008/06/04 15:40

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