ある町医者の診療日記

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zoom RSS 救急救命士による気管内チューブの食道挿管

<<   作成日時 : 2007/05/11 20:43   >>

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危惧されていた事例が起こってしまいました。
医師以外の者による気管内挿管は、アメリカなどでは既に行われています。それで、日本でもということになり、救急救命士に気管内挿管を認めるかどうか議論になりました。
反対意見はかなりあったようです。
が、認められた。
その時、一番危惧されたいたのが、誤挿管です。
挿管する時に、歯を折ったり、口腔内や喉を傷つけるというのはある程度しかたないとしても、食道挿管をしてしまうと、日本のことです、業務上過失致死罪ということになってしまう可能性もあります。

それが起こってしまった。

救命士がチューブ誤挿入 搬送女性死亡、名古屋
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&articleId=46794
共同配信のようです。
毎日、朝日、読売もネット上で検索してみましたが、一番、まともでした。
(毎日が最低でした、はっきり言って毎日に医療ニュースを書く資格はない、それほど情けない内容)

-----(ここから引用)-----
【2007年5月8日】

 名古屋市は7日、瑞穂消防署の男性救急救命士(37)が1日に心肺停止状態の女性(68)を自宅から救急車で搬送した際、気道確保のためのチューブを誤って食道に挿入したと発表した。女性は病院に搬送後、死亡が確認された。死因は心筋梗塞(こうそく)だった。市は誤挿管が死亡につながった可能性もあるとみて詳しく調べている。

 市によると、1日午前零時すぎ、女性の家族が119番し、救命士らが同市瑞穂区の女性宅に向かった。到着時、女性は呼吸をしていたが、意識不明。数分後に心肺停止状態に陥ったため、救命士が病院の医師と連絡を取りながら、挿管し救急車に乗せたという。

 病院で女性の死亡が確認された後、医師がチューブを抜こうとして誤挿管が分かった。

 救命士は聴診器で女性の肺の音を確認したり、体内の二酸化炭素濃度を測っていたが、誤挿管に気付かなかったという。

 市消防局は3日、女性の遺族に謝罪。「事実は厳粛に受け止める。さらに精度の高い救急救命活動ができるように取り組む」としている。
-----(引用、終わり)-----

事実の整理をしてみます(毎日新聞のは、この事実経過がさっぱり分からない)。
心筋梗塞で心停止、呼吸停止となり、蘇生術を行う際に救急救命士が気管内挿管を行い、病院に搬送、しかし病院で死亡が確認された。
その際、挿管されていた気管内チューブを医師が抜こうとした時、チューブが食道に入っていたことが分かった。

この共同には書かれていませんが、読売によると「この救命士は、2005年8月に資格を取得し、今回の挿管が2例目。「食道と気管を見誤った可能性がある」と話しているという。」とのことです(なお、死亡確認は、約1時間後だそうです)。
資格をとったということは、病院で気管内挿管の訓練を受けたということになります。30例、全身麻酔を受ける患者さん相手に挿管を行う練習をするのだそうです。

私が一番危惧することは、この救急隊員が刑事罰を受けないかということです。有罪にならなくても、警察の捜査が入ったというだけで問題です。その上、起訴となればどうなることか。
逆に、こんなミスを犯しても、なんのお咎めもないとしたら、いつもこういうことで刑事罰を受けている医師との違い、不平等さに、私は驚く。
また、民事上の問題はどうでしょうか?
遺族から、賠償を請求されたらどうするのでしょうか?
はっきり言って、やってられないでしょう、救急などということは。
それで給料もらっているんだろうから、ミスしたんだから賠償するのは当然でしょうか?
私は違うと思うのですが、でも医師は賠償しろと言われているのですよ、同じようなことで。

この事件、m3.comでも議論になっています。
ただ、大淀病院事件のように詳細な事実経過が分からないので、中途半端ではあります(このことからも、事実経過がきちんと分かることは重要なのです)。

私がその中の、確かにそうだと思ったのは、なぜ誤挿管が最後の段階まで分からなかったのかということです。
本当に、誤挿管だったのでしょうか?
「救命士は聴診器で女性の肺の音を確認したり、体内の二酸化炭素濃度を測っていたが、誤挿管に気付かなかった」と共同は書いています。
嘘を言っているのではないとしたら、聴診での確認もできない者だったのか?
胃に空気が入っているのを肺の音だと間違うことも、、、まさかなぁ、、、
さらにです、ずっと食道挿管の状態だったら、胃がパンパンに張ってくるはずです。それも気づかなかったというのも不思議です。救急車内でも、病院でもです。
また、「体内の二酸化炭素濃度を測っていた」ということですから、呼気の二酸化炭素濃度を測定していたということでしょう。カプノメーターというのだそうで、呼期末の二酸化炭素濃度は動脈血の二酸化炭素濃度によく比例するというので使われます(私が開業する前にはまだこれは一般化していなかった、とにかく高い機械なもので)。これで確認していたのに誤挿管だったなどというのがあり得るのでしょうか?
それで、m3.comでは、気管内挿管だったものが途中で気管内から外れたのではないという意見が出されています。
これもあり得ると私は思います。
心マッサージやストレッチャーから移す時などに外れたという可能性も考えられる。さらに、死亡確認直前に外れたということもあり得る。
私は、これが一番納得がいきます。
これなら、全て筋が通るからです。聴診の確認、カプノメーター、胃の拡張がなかったこと、蘇生中、誰も誤挿管に気づかなかったことなど全て筋が通る。

最後に、そもそも救急隊員に、現場や救急車内で気管内挿管させる価値があるのかどうか、問題提起されていたことも書いておきます。
もしかすると、これがこの事件における最重要なことかもしれません。

救急蘇生で一番重要なことは、脳循環です。
現在の救急蘇生法は、呼吸の維持というのはあまり重視しておらず、心マッサージを重要視しています。心マッサージを一瞬たりとも中断するなというのが大原則になっています。呼吸維持のために、短時間でも心マッサージが中断することがあるのなら、そんなことはほっておき、とにかく、中断することなく心マッサージを続けなさいと。
手術台上で、意識を無くし筋弛緩状態にした、そういう挿管を非常にしやすい状態でも、挿管がうまくいかないことがあるのです。ましてや、現場や狭い救急車内で挿管するってのは難しいものがあると容易に予想できます。挿管に時間をとられていては心マッサージが中断しかねません。そんな時間があれば、心マッサージを続けておったほうがまだましだと。

それと、救急蘇生時に救急隊員による気管内挿管をさせて実際蘇生率が改善したというエビデンスは全くないのだそうです。もちろん、日本にはないし、諸外国にもない。エビデンスもない、その上、危険でもあるようなことを、医師でもないものにさせていいのかというのがあります。
こういう問題は、救急救命士に挿管をさせるかどうか議論になった時、医師側は疑問を呈したのです。
それに対し、素人のコメンテーターが、医師の既得権益を守ろうとするとかなんのといういちゃモンをつけたテレビ番組を見たことが、私はあります。
最後にこのことについて書かれたメッセージを引用して終わりにします。
「もとらがーまん」という方のメッセージです。
-----(ここから引用)-----
救急士に挿管をさせるか否かの議論があった時、マスコミは何をやったか覚えていますか?
「命に拘わる医療行為を医師以外の者に委ねて良いのか、そもそも医師法に違反するではないか」と慎重論をかかげた医師会を反対勢力に祭り上げ、しきりに「米国での救命率が高いのは、現場で救命士での挿管が「許されているからだ」というプロパガンダを繰り広げていました。医師は、自分の権益を守る為、人々の命を軽んじている」風な物言いであったと思います。私は、救命士の挿管、大いに結構と思っておりました。
ただし、
1)救 命士は手技に失敗した事が原因で救命し得なかった時、医師と同等の責任を取る事
2)?国民は、挿管の成否を救命士に委ねる覚悟を持つ事
...は、セットであると思っていました。
救命士の方々、このケースは当初から充分に想像出来たはずです。医師は挿管以 外の総ての医療に関して、同じレベルで重圧と日々立ち会っているわけですが、さてこれからどうなさいますか?
中途半端な覚悟なら挿管やめるのも賢明な判断かも知れません。覚悟がおありなら、頑張って下さい。応援します。でも今回の事は「医師と同等の責任」を取らされる事は必定です。
プロの生業とはそういうものです。
-----(引用、終わり)-----

さて、この問題、どうなるんでしょう?

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